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札幌高等裁判所 昭和60年(ネ)153号 判決

控訴人(原告) 田中正巳

同 田中リン

同 田中義三

同 氏家れん子

同 井越美和子

右控訴人ら訴訟代理人弁護士 本田勇

同 藤野義昭

被控訴人(被告) 医療法人啓生会

右代表者理事 岡不二太郎

右訴訟代理人弁護士 飯野昌男

主文

一、原判決中、控訴人らと被控訴人との間において、控訴人らが各自被控訴人の「出資者たる地位」を有することの確認請求を棄却した部分を取り消す。

二、控訴人らの右「出資者たる地位」の確認を求める訴をいずれも却下する。

三、控訴人らのその余の控訴を棄却する。

四、訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

1. 控訴の趣旨

(一)  原判決を取り消す。

(二)  控訴人らと被控訴人との間において、控訴人らが各自被控訴人の「社員たる地位」を有することを確認する。

(三)  控訴人らと被控訴人との間において、控訴人らが各自被控訴人の「出資者たる地位」を有することを確認する。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2. 控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

二、当事者の主張及び証拠の関係は、原判決四枚目裏三行目の「正已」を「正巳」と改めるほかは、原判決の事実摘示の記載と同一であるから、これを引用する。

理由

一、当裁判所は、控訴人らの本訴請求のうち、「社員たる地位」の確認請求は失当であり、「出資者たる地位」の確認請求は不適法であると判断するものであって、その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1. 原判決五枚目裏一行目の「請求原因1」の次に「(ただし、被控訴人設立当時の現物出資に係る不動産の時価の点を除く。)」を加える。

2. 同二行目の「ところで、」の次に「医療法四四条二項によれば、社団法人たる医療法人を設立しようとする者は、定款をもって、少なくとも社員たる資格の得喪に関する規定その他同項各号に掲げる事項を定めなければならないところ、」を加える。

3. 同七枚目表二行目の次に、改行して以下のとおり加える。

「控訴人らは、被控訴人の「社員たる地位」の確認を求めると共に、被控訴人の「出資者たる地位」の確認をも求めているところ、出資に関しては、前記定款では、第九条において「退社した社員はその出資額に応じて払戻しを請求することができる。」(なお、乙第一号証第九条参照)旨を定めているのみであって(前記甲第五号証の第一〇条では、被控訴人の社員の氏名、その出資に係る資金を定めている。)、その余のことについては何ら定款においては定められていない(なお、第六条・第七条第一項参照)ところ、被控訴人においては、出資者は全て社員になることを前提としており(弁論の全趣旨によれば、出資者であって被控訴人の社員でないものはいないことが認められる。)、したがって、出資者たる地位は、もともと社員たる地位(社員権ともいえよう。)に包含されているといえるのであり、被控訴人との関係において、出資者たる地位を法的地位として独自にこれを主張することができるものとは解されない(かりに出資の有無自体が争われる場合があるとしても、前記のように、出資者たる地位は社員たる地位に包含されるものといえるから、社員たる地位に関して争わせれば足りるものというべく、又、出資額ないしその払戻額が争われるべき場合には、その金銭債権額の存否ないし額の争いとして法的保護が与えられればよいものである。)。そうだとすれば、本件においてはわざわざ「出資者たる地位」を独自の法的地位として、確認の訴えの対象とすることができないものというべく、これを確認の請求とする部分は不適法として、却下を免れない。」

二、よって、控訴人らの「社員たる地位」の確認請求を棄却した原判決は相当であって、控訴人らの右請求についての控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴人らの「出資者たる地位」の確認請求は不適法であるから、控訴人らの右請求を棄却した部分の原判決を取り消し、控訴人らの「出資者たる地位」の確認を求める訴を却下することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条、第九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奈良次郎 裁判官 松原直幹 柳田幸三)

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